舞姫 | 装束 | ||
1〜4人 | 天冠・千早 榊 |
写真提供:雅楽アンサンブル幻奏舎
「豊栄舞」とは近年に作曲・作舞された歌舞で、祭祀舞のカテゴリーに属します。祭祀舞とは全国の神社にて奏楽される歌舞で、雅楽々器を用い、国風歌舞風の旋律にて奏唱、舞う楽曲ですが、厳密には現行の「雅楽」には含まれません。豊栄舞は、祭祀舞の中でも代表的な歌舞で、「浦安の舞」と並んで全国の神社祭祀で奉納されています。また豊栄舞は別名「乙女舞」とも名づけられており、男子の舞である「朝日舞」(宮司舞)と併せて、神社本庁にて制定された祭祀舞です。
祭祀舞について
この祭祀舞は、朝日舞(宮司舞)と豊栄舞(乙女舞)との二つから成り立ってゐる。
舞ひ方及び歌詞、歌曲もむづかしくなく誰でも僅かの練習でこれが舞を舞ひ歌を歌ふことが出来、レコードも出来ていゐるので、忽ちの間に広く行き亘つた。然しやさしい中にも神社信仰、延いては広い神の道の深い香りが漂つてゐるので、これを舞ひこれを歌ふ中に自ら深い宗教的な気持ちを昂めることができる。
この舞曲については小野雅楽会の尽力による所が大なるものがある。併せしるして感謝の意を表する。
昭和二十五年十一月神社本庁(「祭祀舞 舞譜・楽譜」 発行 神社本庁)
■あらまし
昭和25年、神社本庁における当事の調査課長であった岡田米夫氏が主となり、神社本庁による祭祀舞が二つ、制定されました。豊栄舞(乙女舞)と朝日舞(宮司舞)です。それぞれ祭祀舞の編曲、作舞に関しては、小野雅楽会への委嘱です。制定以降、神社本庁主催により両舞の講習等を経て全国の神社へ広められ、現在では「浦安の舞」と並んで神社祭祀等で用いられる歌舞となっています。
序にかえて
太平洋戦争終結後の間も無い昭和二十五年の頃、今は亡き当時の岡田米夫調査課長の御尽力に依り、神社本庁に於ける祭祀舞の制定が実現するに至った。
その作曲編曲ならびひ作舞の件に関しては、東京都の小野照崎神社の小野亮哉宮司が主宰する小野雅楽会が委嘱された。
爾来、神社本庁主催の雅楽指導者養成研修会と共に、この舞の講習も行はれたが、昨秋、昭和六十二年十一月十九日より二十一日までの三日間、新しい神社庁舎にて開催された第一回祭祀舞研修会には、予想を超える多数の熱心な受講生達が参加された。
・・・途中略・・・
以上、縷々申し述べたが、今後益々祭祀舞の普及することを希望して止まない。昭和六十三年七月二十八日神社本庁祭祀舞講師(宮内庁元楽長)東儀和太郎同上文献より抜粋
■「豊栄舞」の作詞・作曲
豊栄舞の曲は雅楽古典曲である「平調越天楽」と、保育唱歌にある「風車」(東儀季熈撰譜)を元に編曲されたもので、作詞は臼田甚五郎(うすだ じんごろう)です。
■保育唱歌「風車」について
豊栄舞の歌及び前奏・後奏部分は、雅楽の平調越天楽の旋律を基に、編曲したものが用いられています。また間奏部分は「風車」という保育唱歌の旋律を編曲したものが、用いられています。詳しくは「保育唱歌」遊戯唱歌の部に、第八十六に収められていましたが、後に音楽取調掛編「幼稚園唱歌集」に採用され、第二十六番「風ぐるま」として収録されました。
●「風車」の歌詞
風車 風の随(まにま)に 輪旋(めぐる)なり
止まず旋(めぐ)るも 止まず旋るも
●「風車」の作者
・詠(作詞):豊田芙雄
・撰譜(作曲):東儀季熈
(「日本の唱歌上」-講談社)
■保育唱歌とは
「保育唱歌」は明治10年に東京女子師範学校(現お茶の水女子大学の前身)付属幼稚園で初めて「遊戯」の授業が行われた際にまとめられた最初の幼児用唱歌集です。「保育唱歌」は通称で、詳しくは「保育並ニ遊戯唱歌」といいます。もとは明治5年の制度で、小学校に「唱歌」、中学校に「奏楽」という教科がおかれましたが、ともに「当分欠ク」とされていました。
▼豊栄舞の諸役と人員
諸役 | 舞姫 | 箏 | 琵琶 | 龍笛 | 篳篥 | 笙 | 太鼓 | 鞨鼓 | 鉦鼓 | 歌方 |
人数 | 1人〜4人 | 1人 | 1人 | 1人 | 1人 | 1人 | 1人 | 1人 | 1人 | 1人〜数人 |
※歌方の一人は笏拍子を打ちながら、歌います。
※諸役(楽器)を全てそろえての奏楽(奉納)はめったに見かけませんが、神社本庁発行の「祭祀舞譜」にはそれぞれの譜が記されてあります。
■祭具
●天冠
舞姫の額に当てる祭具です。かざしの花は、季節のものを充てることもあります。
▼豊栄舞で用いる絃楽器の調絃
箏
絃名 | 一 | 二 | 三 | 四 | 五 | 六 | 七 | 八 | 九 | 十 | 斗 | 為 | 巾 |
調律 | 黄鐘 | 壱越 | 平調 | 双調 | 黄鐘 | 盤渉 | 壱越 | 平調 | 双調 | 黄鐘 | 盤渉 | 壱越 | 平調 |
※豊栄舞の箏の調絃は、古典雅楽の管絃で用いる調絃は用いず、オリジナルの調絃となっています。上記中、九ノ絃は双調甲音、十ノ絃は黄鐘調甲音に調絃します。またこの祭祀舞の箏譜には輪説譜もありますが、輪説での演奏の際は、一ノ絃を黄鐘調乙音に調絃します。
琵琶(水調の調絃)
絃名 | 一 | 二 | 三 | 四 |
調律 | 黄鐘 | 盤渉 | 平調 | 黄鐘 |
※一ノ絃は黄鐘乙音、四ノ絃は黄鐘甲音に調絃します。
▼豊栄舞の歌詞
@
アケノクモワケウラウラト トヨサカノボルアサヒコヲ
あけの雲わけうらうらと 豊栄昇る朝日子を
カミノミカゲトオロガメバ ソノヒソノヒノトオトシヤ
神のみかげと拝めばその日その日の尊しや
A
ツチニコボレシクサノミノ メバエテノビテウルワシク
地にこぼれし草のみの 芽生えて伸びて美しく
ハルアキカザルハナミレバ カミノメグミノトオトシヤ
春秋飾る花見れば 神の恵みの尊しや
▼奏楽作法
豊栄舞 | |||
出時 | ・参出音声 (まいりおんじょう) | 龍笛独奏による音取 | 舞姫は順次登場し、音取が止むと所作により着座する。 |
当曲 | ・豊栄舞 (とよさかまい) | 歌曲@・間奏・歌曲A | 舞姫は奏楽に合わせて舞う。 |
入時 | ・退出音声 (まかでおんじょう) | 龍笛独奏による音取 | 舞姫は所作にて立ち上がり、奏楽が始まると順次退場する。 |