●五声・七声
唐楽には伝統的な階名と、五声や七声などと呼ばれる音階があります。唐楽で用いられる階名には、ある調の源調である「均」の主音(トニック)を指す「宮」を基準として、「宮」から長二度を指す「商」、完全五度を指す「徴」等があります。そしてこれら階名で記された調の音階を「五声」「七声」と呼びます。
▼五・七音階の構成図@(ある「均」の宮を第一音「宮調」とした場合)
第一音からの音程 | 完全一度 | 長二度 | 長三度 | 増四度 | 完全五度 | 長六度 | 長七度 |
(構成音列) 五声階名 | (第一音) 宮 | (第二音) 商 | (第三音) 角 | (第四音) 徴 | (第五音) 羽 | ||
(構成音列) 七声階名 | (第一音) 宮 | (第二音) 商 | (第三音) 角 | (第四音) 変徴 | (第五音) 徴 | (第六音) 羽 | (第七音) 変宮 |
▼五・七音階の構成図A(ある「均」の商を第一音「商調」とした場合)
第一音からの音程 | 完全一度 | 長二度 | 長三度 | 完全四度 | 完全五度 | 長六度 | 長七度 |
(構成音列) 五声階名 | (第一音) 商 | (第二音) 角 | (第三音) 徴 | (第四音) 羽 | (第五音) 宮 | ||
(構成音列) 七声階名 | (第一音) 商 | (第二音) 角 | (第三音) 変徴 | (第四音) 徴 | (第五音) 羽 | (第六音) 変宮 | (第七音) 宮 |
▼五・七音階の構成図B(ある「均」の羽を第一音「羽調」とした場合)
第一音からの音程 | 完全一度 | 長二度 | 短三度 | 完全四度 | 完全五度 | 長六度 | 短七度 |
(構成音列) 五声階名 | (第一音) 羽 | (第二音) 宮 | (第三音) 商 | (第四音) 角 | (第五音)徴 | ||
(構成音列) 七声階名 | (第一音) 羽 | (第二音) 変宮 | (第三音) 宮 | (第四音) 商 | (第五音) 角 | (第六音) 変徴 | (第七音) 徴 |
●音程と階名
鍵盤のイメージで十二律を表わし、音程と階名を考えてみます。
※唐古律で表記
■黄鐘均の場合
「黄鐘」を均とした場合、黄鐘均の主音自体の階名が「宮」となります。 無射均の場合は「無射」が「宮」となり、林鐘均の場合は「林鐘」が「宮」となります。 すなわち「宮」とは均の主音を指す階名です。
鍵盤図を見ると「黄鐘」の白鍵と隣の白鍵「太簇」との音程は長二度となります。この二音の音程の関係は「商」という階名で呼表わします。
次に「黄鐘」から「姑洗」を見た場合、最初単位の半音が計4つあることが解ります。この二音の音程は長三度となり、階名を「角」で表わします。
今度は「黄鐘」から「蕤賓」の音程ですが、これは増四度となっています。この二音の音程の関係は「変徴」という階名で表わします。
そして「黄鐘」から「林鐘」の場合ですが、この音程は完全五度となっています。この二音の音程の関係を、「徴」という階名で表わします。
さらに「黄鐘」から「南呂」の場合の音程は長6度で「羽」、「應鐘」の場合は長七度で「変宮」という階名で表わします。
以上の内容から「黄鐘均」の構成を成す音律は、
-黄鐘-太簇-姑洗-蕤賓-林鐘-南呂-應鐘-
となり、どの音律を音階の第一音とするかによって、「宮調」「商調」「羽調」などの「調性」が決定つけられます。例として「黄鐘均宮調」の音階と階名、均の主音からの音程を記すと、以下の表になります。
▼黄鐘均宮調の五声・七声の音律と階名
第一音からの音程 | 完全一度 | 長二度 | 長三度 | 増四度 | 完全五度 | 長六度 | 長七度 |
五声階名 音律名 | 宮 黄鐘 | 商 太簇 | 角 姑洗 | - - | 徴 林鐘 | 羽 南呂 | - - |
七声階名 音律名 | 宮 黄鐘 | 商 太簇 | 角 姑洗 | 変徴 蕤賓 | 徴 林鐘 | 羽 南呂 | 変宮 應鐘 |
▼黄鐘均商調の五声・七声の音律と階名
第一音からの音程 | 完全一度 | 長二度 | 長三度 | 完全四度 | 完全五度 | 長六度 | 長七度 |
五声階名 音律名 | 商 太簇 | 角 姑洗 | - - | 徴 林鐘 | 羽 南呂 | - - | 宮 黄鐘 |
七声階名 音律名 | 商 太簇 | 角 姑洗 | 変徴 蕤賓 | 徴 林鐘 | 羽 南呂 | 変宮 應鐘 | 宮 黄鐘 |
▼黄鐘均羽調の五声・七声の音律と階名
第一音からの音程 | 完全一度 | 長二度 | 短三度 | 完全四度 | 完全五度 | 長六度 | 短七度 |
五声階名 音律名 | 羽 南呂 | - - | 宮 黄鐘 | 商 太簇 | 角 姑洗 | - - | 徴 林鐘 |
七声階名 音律名 | 羽 南呂 | 変宮 應鐘 | 宮 黄鐘 | 商 太簇 | 角 姑洗 | 変徴 蕤賓 | 徴 林鐘 |
●七声階名の称呼法をめぐる混乱
平安期の楽制改革で、日本雅楽の楽理の整理が行われた結果、輸入した唐六調の楽理との間には相違が生まれました。調によって変わることはない唐七声の音程関係ですが、日本では調の音階の第一音を「宮」として、改めて「商」「角」「徴」「羽」の階名を当てはめたため、本来の七声と一致しなくなりました。そこで「嬰」(半音上げる)という概念を生み出し、独自に「律角」「嬰羽」の階名を加えて矛盾を解消しまたのでした。
▼十二律と日本雅楽の階名
※参考文献
(『雅楽を知る辞典』遠藤徹 株式会社東京堂出版 2013)
(「角調・曹娘褌脱」の訳譜について 芝佑靖 『日本音楽叢書(1)雅楽』音楽之友社 1990 所収)
(『新訂 梁塵秘抄』 佐佐木信綱校訂 岩波文庫 1993)