唐の俗楽二十八調


■唐の俗楽二十八調

玄宗勅による楽制改革では、その公布において十四調のみ公示がありました。岸辺成雄氏の論によると、これら十三の調(不明な金風調を除く)の名称と音組織を知れば、唐末の「楽府雑録」などに見える俗楽二十八調の組織がわかるため、公示に記されていなかった残りの十五調を含めた二十八調は、天宝十三載の改変時に、理論として制定されていたと考えられます。俗楽二十八調とは、七つの均と四つの音階を基音とした調です。

日本雅楽が、平安朝に左方唐楽、右方高麗楽に二分されるという大きな楽制改革を経験したように、唐では、胡俗融合を制度上で明示するということが行われた。玄宗の天宝十三載(754)の、曲名変更と調名確立の公布である。...中略...天宝十三載七月十日、都長安の太常寺(文部省)の太楽署(音楽局)の中に大きい石を立て、それに二百数十曲の曲名を十四調に分けて彫りつけ、この楽制改変を天下に公示した。...中略...これら十三調の名称とその組織を知れば、二十八調の組織がわかる。即ち、十三調が、天宝十三載に改名されたということは、二十八調が天宝十三載に理論として創定されていたことを意味すると理解できるのである。

(岸辺成雄(2005a)「唐の俗楽二十八調の成立年代に就いて」東洋学報二十六巻)




▼唐の俗楽二十八調(音階構成音律は英名にて表記)
調別称第1音第2音第3音第4音第5音第6音第7音
太簇均宮調正宮D E F♯ G♯ A B C♯
商調大食調E F♯ G♯ A B C♯ D
角調大食角F♯ G♯ A B C♯ D E
羽調般渉調B C♯ D E F♯ G♯ A
夾鐘均宮調高宮D♯ F G A A♯ C D
商調高大食F G A A♯ C D D♯
角調高大食角GAA♯CDD♯F
羽調高般渉調C D D♯ F G A A♯
仲呂均宮調中呂宮F G A B C D E
商調雙調G A B C D E F
角調雙角A B C D E F G
羽調中呂調D E F G A B C
林鐘均宮調道調宮G A B C♯ D E F♯
商調小食調A B C♯ D E F♯ G
角調小食角B C♯ D E F♯ G A
羽調正平調E F♯ G A B C♯ D
南呂均宮調南呂宮A B C♯ D♯ E F♯ G♯
商調歇指調B C♯ D♯ E F♯ G♯ A
角調歇指角C♯ D♯ E F♯ G♯ A B
羽調高平調F♯ G♯ A B C♯ D♯ E
無射均宮調仙呂宮A♯ C D E F G A
商調林鐘商CDEF♯GAA♯
角調林鐘角DEFGAA♯C
羽調仙呂調GAA♯CDEF
黄鐘均宮調黄鐘宮CDEF♯GAB
商調越調DEF♯GABC
角調越角EF♯GABCD
羽調黄鐘羽ABCDEF♯G

※調別称の色付は日本に伝来したと考えられる調で、太字は唐楽六調子。



■唐六調子と枝調子

奈良時代に日本に輸入・実用された調は、唐二十八調の内の六つの調子と、枝調子として体系付けられた調です。それらは天宝十三載に改名された調名(天宝十四調)を元に、改めて日本風に名付けられました。唐六調子は三調子ずつ二つの種類(「商調」と「羽調」)に分けられ、一方は「呂」、もう一方は「律」とされました。 枝調子は中世頃までには六調子に吸収されて廃絶し、現在では絃楽器の調絃や音取の曲名等の一部に、その名称の名残を留めるのみとなっています。

▼唐六調子の均と調
()内は唐調名の別称、「」内は別称を元に改名された日本名

◆で表記している呂の調子のグループは、「商調」の音階
◇で表記している律の調子のグループは、「羽調」の音階


◆黄鐘均商調(越調)−「壱越調」
Ichikotsu

◆仲呂均商調(雙調)−「双調」
Soujyo

◆太簇均商調(大食調)−「太食調」
Taishiki

◇林鐘均羽調(正平調)−「平調」
Hyouzyo

◇黄鐘均羽調(黄鐘羽)−「黄鐘調」
Oushiki

◇太簇均羽調(般渉調)−「盤渉調」
Banshiki


  
参考文献
(『雅楽を知る辞典』遠藤徹 株式会社東京堂出版 2013)
(『新唐書 第二冊』-唐書巻二十二 禮楽十二 欧陽脩撰 中華書局)
(明土真也 『六孔尺八と八十四調の関係』音楽学第62巻1号 2016)
(岸辺成雄『唐の俗楽二十八調の成立について』東洋学報26-3,4 1939)