「かえるのうたが〜♪」・「かえるのうたが〜♪」・・「かえるのうたが〜♪」・・・
と少しずつずらして歌っていく歌い方を、みなさんは小学校で習った覚えがあると思いますが、この歌い方を「輪唱」(りんしょう)といい、奏法としては「カノン」と呼びます。
雅楽の奏法には、この「カノン」及びそれに似た奏法があります。
その奏法を、退吹(おめりぶき)と、追吹(おいぶき)と言います。
退吹(おめりぶき)と追吹(おいぶき)は、混同してしまって呼んでいるケースもありますが、増本 伎共子氏はその著書「雅楽入門」で、明確に分けています。
まず退吹ですが、これは主に舞楽演奏時に舞人の登場曲で用いられる奏法です。
篳篥や笙では調子(ちょうし)、龍笛では品玄(ぼんげん)と呼ばれるフリーリズムの楽曲や、また笛と打楽器のみの「○○乱声」などの各種の乱声と呼ばれる楽曲で、退吹を用います。
主管と呼ばれる主席奏者から、助管と呼ばれる第二奏者(グループ)、第三奏者(グループ)と順に、メロディーを少しづつずらせて吹いていきます。
ずらせて(遅らせて)演奏するのは洋楽のカノンと同じなのですが、楽曲が無拍でフリーリズムなので、第二奏者グループ以降の遅れかたに決まりはなく、ただ前の奏者グループのメロディーラインを、追い越さないように、感覚をもって演奏するだけです。
この奏法は、舞人の登場曲以外では、古くは楽曲の「序」の演奏でも用いられていたと聞いています。この場合は乱声等と違って、太鼓の箇所の手前で助管はズレを修正し、太鼓の箇所ではピッタリ合わせ、また退吹にて演奏します。もっとも序の演奏は、そのほとんどが舞立を伴った演奏なので、拍節の無いカノンでの演奏で舞人が舞ことは現実的に無理があることから、現在ではあまり聴くことは無いようです。
退吹での演奏はカオスのような、混沌とた雰囲気が感じられ、幻想的でさえあります。
ちなみに、現在ではあまり行われていませんが、絃楽器群(箏、琵琶)による「退弾」(おめりびき)というのもあったようです。
次に追吹ですが、退吹と違って拍節的なカノンと氏は定義しています。
舞楽曲でとても有名な蘭陵王(らんりょうおう)の演奏の際、舞人の登場楽のとして演奏される陵王乱序(りょうおうらんじょ)という楽曲の際に用いられる奏法です。
追吹の奏法は、完全に洋楽のカノンと同じです。
また安摩乱声(あまらんじょう)という曲では、打楽器群が拍節的なリズムを打つ上に、龍笛が無拍のリズムによる退吹を、同時に重ねて演奏する・・・といった、ユニークな演奏形態を行います。