八仙(はっせん)

調名 舞種 別名 構成
高麗壱越調 平舞 久呂波世 二楽章

Kooran
Kooran

舞人 装束 曲姿 番舞
四人 別装束 小曲 北庭楽


●あらまし

八仙(はっせん)とは高麗壱越調に属する楽曲です。もともと渤海楽(ぼっかいがく)と呼ばれるジャンルの楽曲でしたが、古代の楽制改革によって高麗楽に編入され、現代まで伝えられています。

渤海楽
日本古代音楽の一つ。中国,東北地方 (旧満州) にあった渤海国から伝来した舞楽で,平安時代中期に高麗楽 (こまがく) に整理,吸収された。渤海国を建てたツングース系の民族が靺鞨 (まっかつ) と称したことから,靺鞨楽ともいわれる。

(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)より


古代の楽制改革
古代の日本に伝来したアジア諸国の楽舞は,9世紀半ばごろには徐々に日本化が進み,中国系統の左舞と朝鮮系統の右舞に二分割再編成されて,宮廷社会になじむ制度となった。一般には仁明朝の〈楽制改革〉と称されているが,この左右両部制の成立によって,今日に至る舞楽伝承の基礎が完成された。

(世界大百科事典 第2版)-株式会社平凡社-より

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●由来

八仙は「崑崙八仙」(こんろんはっせん)または「鶴舞」などの別名が、古楽書に記されています。
舞を伴う舞曲ですが、曲の後半には「か〜ごめ、かごめ〜♪」を連想させるような、4人が輪になって回るような舞振があります。これは他の楽曲には無い非常にユニークなものなのですが、この八仙独自の舞振はもとは、三方楽所の一つである天王寺方の作法であったようです。

八仙 三五要略「鶴舞」ト号ス 別装束舞
   面甲有リ 小曲
「崑崙八仙」ト云フ。破、拍子十三、又十ニ。急、拍子十三。
此舞、神仙伝云、淮南王劉安※ 好仙。八公乃至鬂眉皓白。伴舞先吹破。舞人渡事アリ。渡返之後、拍子ヲ加ウ。又云、舞台之中、袖ヲ振リ肩ヲ差ス之時、拍子ヲ加ウ。近来ハ此(振)舞ノ時、小乱声ヲ吹ク。天王寺ノ舞人、大輪ヲ作リテ舞侍リトカヤ。尋ヌル可カ。次急、唐拍子ヲ打ツ。古人云ク、昔ハ急トハ云ハズ、ハヤキ様トゾ申シケル。此舞ノ急ハ、小童部ノアソブトテ、足懸ト云事ノ躰ニ侍ベル也。仙宮ヨリ出タルユヘニ、コケノ衣キタリ。スズハナヲタレタリ。

(古代中世芸術論「教訓抄 巻第五」-岩波書店-)より筆者読み下し



●構成・装束

曲・舞ともに作者は不明で、一説には鶴の一群が大空に飛びかう姿を舞にしたとも言われています。
楽曲の構成は破・急のニ楽章の構成となっており、破は高麗楽の四拍子※1 で拍子は十三※2、急は唐拍子※3 で拍子は十四※2 となっています。

※1、3...共に高麗楽の打楽器のリズムパターンの一種。
※2...楽曲一辺中の、太鼓の「百」を打つ数。

舞人の装束はこの楽曲独自のものを用います。楽曲独自の装束を「別用装束」といいますが、八仙の装束は鯉の繍文様に網をかけた貫頭衣の袍に、鳥の頭と嘴をイメージしたような、冠と面を着用します。


●現行の演奏作法

八仙の演奏では、まず前奏曲である「高麗小乱声」が奏されます。この楽曲は高麗笛の第一奏者※4と打楽器のみの演奏です。

次に「高麗乱声」が高麗笛と打楽器によって演奏されます。この楽曲では複数人の高麗笛奏者の「退吹」(おめりぶき)と呼ばれる奏法が行われます。楽曲の演奏中に舞人は、舞台袖より順次登台して「出手」と呼ばれる舞を舞います。

次に高麗笛と篳篥の各主管による「小音取」が奏されます。この間、舞人は舞台上で静止しています。

続いて当曲の破と急が続いて演奏されます。舞人は舞人は任意の拍子より引き続き当曲の舞を舞いますが、当曲の急は舞人が舞をおさめて退場するまで演奏を続けます※5。

※4...管楽器の第一奏者を雅楽では「主管」(しゅかん)と呼びます。
※5...当曲の演奏中に舞人が退場する形式の演奏を「連吹」(つらねぶき)といいます。




舞楽 八仙
前奏 こまこらんじょう
○高麗小乱声
-
出時 こまらんじょう
○高麗乱声
曲舞
こねとり
○小音取
舞人は舞台で静止
当曲 はっせんのは
○八仙破
舞人は当曲舞を舞う
はっせんのきゅう
○八仙急
舞人は当曲舞を舞う
入時 舞人は順次退場し、管方は吹止



▼国立劇場での主な上演記録

・第12回雅楽公演(昭和47年2月26日)
 雅楽「高麗楽」宮内庁式部職楽部

・第23回音楽公演(平成11年4月15日〜16日)
 日本音楽の表現 打つ

・第58回雅楽公演(平成17年6月4日)
 唱歌−声で奏でる管絃

・第84回雅楽公演(平成30年6月9日)
 雅楽器の魅力

・第85回雅楽公演(令和元年11月9日)
 雅楽 アジアの響き 伶楽舎