調名 | 舞種 | 別名 | 構成 |
平調 | 平舞・文舞 | 嘉殿楽 | 二楽章 |
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舞人 | 装束 | 曲姿 | 番舞 |
四人 | 右肩袒の襲装束・別甲 | 中曲・新楽 | 長保楽 |
●由来
賀殿(かてん)とは壱越調に属する唐楽曲で、古楽書には表記が「嘉殿」(教訓抄より)、別名に「嘉殿楽」「甘泉楽」「含泉楽」(楽家禄より)とも記されています。賀殿は古来より新築の際に用いられる慣わしがありますが、その由来としては以下の説話が教訓抄に記されています。
江記曰ク 嘉保二年八月ノ月此、院ニ於テ閑院新造相撲五番御覧アリシツヰデニ、舞楽ノ沙汰ノアリケル内ニ、「万歳楽」アルベキヨシサタノアルナルヲ、匡房申シ曰ク、「今日『万歳楽』ヲトメテ、『賀殿』ヲ御覧アルベシ。其故ハ、舞(ノ)興頗マサル。一ニハ此院新造也。『賀殿』儀尤相叶ヘリ」。仍光季ニ仰テ、曲ヲツクシタリケレバ、ヨロヅ相応シタリケリ。賢人ノハカラヒ申サレタリケルユヘニヤ。
古代中世芸術論「教訓抄 巻第一」-日本思想体系-より
※筆者訳
嘉保二年八月頃、新築の閑院にて相撲の御覧(堀川天皇)があった際に、万歳楽の演舞の上演予定があったのを、匡房が「賀殿」に変更して御覧になるのが良いと、申し上げた。理由の一つは、この院が新造の為で、「賀殿」の方が尤も儀に合っている為とのこと。そこで光季(狛光季)に命じて上演させたところ、相応しかった。賢人の計らいであったのだろう。。
また「楽家録」には「大国法では大賀の時に奏する」とあります。
笛説曰ク、音管之ヲ作ル。大国法デハ大賀の時に此曲ヲ奏ス云々。
楽家録巻之三十一より
●あらまし
仁明天皇の御世、遣唐使であった藤原貞敏は、唐の琵琶の名手と名高い廉承武(れんしょうぶ)に琵琶の教えを受けていました。貞敏は「賀殿」の琵琶の譜のみ日本に持ち帰ったのですが、その琵琶譜から和邇部太田麿が笛の譜を作りました。さらに勅によりて、林真倉(直倉)が舞を作ったとされています。
一説、南宮横笛譜曰ク、承和帝御子、遣唐使掃き 掃部頭藤原貞敏、簾承武ニ謁シテ琵琶之曲ヲナラフ、世ニ弘メ舞ハ故 林直蔵之ヲ作リ、嘉殿楽ヲ以テ破ト為シ 賀殿ヲ以テ急ト為ス云々。仰嘉殿楽 仁明天皇恩嘉祥年中 笛師和迩部大田麿一本直倉 勅ヲ奉テ之ヲ作ル、年号ヲ以テ之ヲ名ヅク云々
楽家録巻之三十一より
此曲ハ、モロコシヘ、承和御門ノ御時、判官藤原貞敏ト云ケル者ヲツカハシタリケルニ、簾承武ト云人ニ琵琶ヲナラヒテ、此朝ニハヒロメタルナリ。今、急只拍子。 舞ハ同御門ノ御時ニ、勅有リテ舞ヲ作ル時、「嘉祥楽」ヲ以テ破ト為シ、「嘉殿」ヲ以テ急ト為シ、「伽陵頻」急ヲ以テ道行ト為ス。物師林直倉之ヲ作ル。或書ニ云フ、大宋人云々。然者、舞ハ此朝?ニテ作ル云々。 此朝ヘ渡テ作○。尋ヌル可シ。尤不審云々。
古代中世芸術論「教訓抄 巻第一」-日本思想体系-より
●往時の演奏作法
賀殿
破二帖有リ、拍子ハ各十。急四帖有リ、拍子ハ各二十
破二帖アリ。ツネハ一帖舞。二帖ハコモリタル物也。加拍子様、一帖乃至二帖ノ時モ、末二拍子三度拍子加 秘事也。
南宮笛譜ニハ、終ノ帖ニ三度拍子ヲ加 光時一説之ト同。 博雅笛譜ニハ、撥ハ加ヘ不。
急四帖アリ。常ハ三返舞、終ノ帖ニ拍子ヲ加フ 光時ガ秘説ト云フ。 第四帖ヲバ更居突ト名ヅク。タヤスク舞連事ナシ。
残シテ入綾ノ時 一者 之ヲ舞フ。 秘事故也。
古代中世芸術論「教訓抄 巻第一」-日本思想体系-より
・物師...古代における楽人の称
・乃至...ナイシ
・南宮笛譜...貞保親王の笛譜
・更居突...サラヰツキ(舞の手)
●現行の演奏作法
-舞楽-
賀殿の出時の演奏は壱越調音取の後、多くの平舞で用いられる調子や品玄ではなく迦陵頻急を用います(道行)。ただし通常の舞立演奏のようなアップテンポの二拍ではなく、ゆったりとした二拍で演奏します。この楽曲が演奏される間に、舞人は順次登台して出手を舞います。
舞人全ての出手を終えた後、各管第一奏者の壱越調臨時止手で演奏を終了します。次に当曲を演奏し、舞人は当曲の破と急の演奏を舞います。当曲終了後再び当曲の急が演奏され(重吹)、舞人は入手を舞って順次降台、各管第一奏者の壱越調臨時止手を以って演奏を終了します。なお現行の舞楽演奏では通常、絃楽器は用いません。
-管絃-
賀殿の管絃演奏は、壱越調音取からはじまります。この曲は三管と両絃の第一奏者と鞨鼓奏者で演奏します。音取の演奏を終えると三管第一奏者は楽器を膝元に、琵琶と鞨鼓奏者は楽器と桴を一旦元に収めて、箏奏者合わせて左手(さしゅ)します。鞨鼓奏者が桴を構えた後、当曲を横笛の第一奏者より演奏します。
※...管楽器の第一奏者を雅楽では「主管」(しゅかん)と呼びます。
舞楽 賀殿一具 | |||
前奏曲 | いちこつちょうのちょうし ○壱越調調子 (龍笛は音取) | - | |
出時 | かりょうびんのきゅう ○迦陵頻急(道行) | 舞人は登場して入手を舞う | |
当曲 | かてんのは ○賀殿破 | 舞人は当曲舞を舞う. | |
かてんのきゅう ○賀殿急 | 舞人は当曲舞を舞う. | ||
入時 | きゅうのしげぶき ○急重吹 | 舞人は入手を舞い、退場する |
管絃 賀殿一具 | ||
前奏曲 | いちこつちょうのねとり ○壱越調音取 (琵琶は七撥・箏は爪調) | - |
当曲 | かてんのは ○賀殿破 | 延八拍子・拍子十・末ニ拍子加 |
当曲 | かてんのきゅう ○賀殿急 | 早四拍子・拍子二十・末十拍子加 |