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■太鼓の種類
雅楽で用いられる太鼓は特に「楽太鼓」とも呼ばれ、管絃では釣太鼓、舞楽では鼉太鼓、また船上での演奏(船楽)で用いられるのは船楽用太鼓や、行進して演奏する道楽で用いる荷太鼓など、いくつかのの種類があります。
つりだいこ
●釣太鼓・・・胴の幅が12cm、直径54cm程度のものが用いられることが多いようです。主に管絃での演奏で使用します。
だだいこ
●鼉太鼓(大太鼓)・・・舞楽用の大きな太鼓です。高舞台を組んで行われる舞楽ではこの大太鼓を、左右に一対設置します。最も大きいのは四天王寺(大阪市)のもので、直径2.48mあります(重要文化財)。
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太鼓を打つ「バチ」のみ、他の打楽器の「桴」と区別して「撥」の字を使います。 左手に持つ撥は雌撥、右手に持つ撥を雄撥と呼び、雌撥を「図/律」(ズン)・雄撥を「百/動」(ドウ)と唱えます。
雌撥の「図」は弱く、雄撥の「百」は強く打つのが基本ですが、楽曲によっては特殊な打法もあります。
管楽器のカナ譜の右側に大きな●の表記されてある箇所が雄撥の「百」と打つところです。管絃演奏では「百」の二拍前に、舞楽演奏では一拍手前に「図」と打ちます。
■唐楽の演奏における、太鼓の役割
一般的に打楽器は、音楽でリズムやアクセントを刻む役割を担っていることが多いです。けれども雅楽では一部の楽曲を除いて、太鼓の奏法自体にリズミカルな役割は持たせていません。※2 特に唐楽で奏する太鼓はそれぞれの楽曲で予め定まっている小節の周期毎に打つという、一種の区切りを表す役割を担っています。
例えば管絃(唐楽)では「早四拍子」の楽曲の場合、太鼓は4小節(小拍子四)毎に「百」を打ちます。また「延八拍子」の楽曲では、8小節(小拍子八)毎に「百」を打っていきます。 太鼓を打ってから次の太鼓を打つまでの周期が、数小節あります。
ただ高麗楽の場合は、若干リズム的な要素が感じられます。 高麗楽では4小節(小拍子4)毎に数回、太鼓が打たれます。唐楽と比べて、太鼓間の周期は短いです。さらに高麗楽では三ノ鼓が割とリズミカルに打たれるため、唐楽とは違った印象となります。 しかしながら、やはり太鼓自体はリズムを刻んでいるとは言い難いように思います。 いづれにしても、雅楽演奏における太鼓の役割は、リズムやアクセントを刻むというよりは、曲中の「区切」を示すものと言えるのではないでしょうか。
■登場する古典書籍等
●源氏物語には、末摘花の帖に太鼓の描写があります。
大臣、夜に入りてまかでたまふに、引かれたてまつりて、大殿におはしましぬ。行幸のことを興ありと思ほして、君たち集りて、のたまひ、おのおの舞ども習ひたまふを、そのころのことにて過ぎゆく。
ものの音ども、常よりも耳かしかましくて、かたがたいどみつつ、例の御遊びならず、大篳篥、尺八の笛などの大声を吹き上げつつ、太鼓をさへ高欄のもとにまろばし寄せて、手づからうち鳴らし、遊びおはさうず
「源氏物語」末摘花 -紫式部-
注)
※1...熱田神宮には右鼉太鼓のみ現存。
※2...「陵王乱声」や「蘇莫者序」など一部の楽曲では、リズム的な太鼓の打法をする楽曲もあります。
参考文献
(『雅楽鑑賞』押田良久 文憲堂 1987)
(『雅楽辞典』小野亮哉・東儀信太郎 音楽之友社 2004)
(『五線譜による雅楽総譜 巻一〜四』芝祐泰 カワイ楽譜 1972)
(『源氏物語 付現代語訳 玉上琢弥注 角川書店 1964)
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