三ノ鼓(さんのつづみ)





さん‐の‐つづみ【三の鼓】 雅楽の打楽器の一。胴長約45センチ、鼓面の直径約42センチの細腰鼓(さいようこ)。右手の桴(ばち)で右面だけを打つ。高麗楽(こまがく)に用いる。 大辞泉(小学館) より



打楽器の「鞨鼓」が唐楽の楽曲で用いる統率楽器なのに対して、「三ノ鼓」(さんつづみ)は高麗楽の演奏の際に用いる打楽器です。 砂時計を横にしたような形で、約45cmほどの筒状の木の両端に、直径約45cmほどの枠にはめた皮をかけ、調緒(しらべお)と呼ばれる紐でしめています。

「鞨鼓」の場合は両手に撥を持って左右の鼓面を打ちますが、「三ノ鼓」は右手のみ撥を持ち、片面だけを打ちます。 「鞨鼓」の打ち方には、「諸来」というトレモロのような奏法がありますが、「三ノ鼓」の場合はそういった奏法はありません。音色は、軽い音色の「鞨鼓」と比べて、どちらかというと鈍い音色がします。 また三ノ鼓は鞨鼓と比べると、リズミカルでテンポを感じさせるような打ち方(奏法)をします。

ちなみに打ち方は、「帝」(テン)と一度打つのと、「帝帝」(テン・テーン)と連続で打つ打ち方があります。
註)
「帝」は口唱歌のこと



■登場する古典書籍等
●源氏物語
源氏物語には、打楽器の総称として「鼓」の描写がいくつかあります。逆に言うと、「三ノ鼓」や「鞨鼓」といった個別の名称の表記は見当たりません。平安時代では、楽器の区別はあったのでしょうが、名称は特に分けていなかったということでしょうか。

行幸には、親王たちなど、世に残る人なく仕うまつりたまへり。春宮もおはします。例の、楽の舟ども漕ぎめぐりて、唐土、高麗と、尽くしたる舞ども、種多かり。楽の声、の音、世を響かす。

「源氏物語」紅葉賀 紫式部


ことことしき高麗、唐土の楽よりも、東遊の耳馴れたるは、なつかしくおもしろく、波風の声に響きあひて、さる木高き松風に吹き立てたる笛の音も、ほかにて聞く調べには変はりて身にしみ、御琴に打ち合はせたる拍子も、を離れて調へとりたるかた、おどろおどろしからぬも、なまめかしくすごうおもしろく、所からは、まして聞こえけり。

「源氏物語」若菜下 紫式部


夜もすがら、尊きことにうち合はせたるの声、絶えずおもしろし。 ほのぼのと明けゆく朝ぼらけ、霞の間より見えたる花の色いろ、なほ春に心とまりぬべく匂ひわたりて、百千鳥のさへづりも、笛の音に劣らぬ心地して、もののあはれもおもしろさも残らぬほどに、陵王の舞ひ手急になるほどの末つ方の楽、はなやかににぎははしく聞こゆるに、皆人の脱ぎかけたるものの色いろなども、もののをりからにをかしうのみ見ゆ。

「源氏物語」御法 紫式部




参考文献
(『雅楽鑑賞』押田良久 文憲堂 1987)
(『雅楽辞典』小野亮哉・東儀信太郎 音楽之友社 2004)
(『五線譜による雅楽総譜 巻一〜四』芝祐泰 カワイ楽譜 1972)
(『源氏物語 付現代語訳 玉上琢弥注 角川書店 1964)
(『楽家録』安部季尚編/正宗敦夫校註 日本古典全集刊行会 1935)
(『古寺類縁』吉川弘文館 1896)