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舞人 | 装束 | ||
四人 | 上攝ヤ袍・下摎ホ袍 垂纓冠・笏 |
倭舞(やまとまい)
日本の雅楽の一種。毎年 11月 22日皇居内で行われる鎮魂祭の夕べに『大直日歌』の次に奏される歌舞。「和舞」「大和舞」とも書くが,現在宮内庁楽部では総称としての「大和歌」の場合のみ「大和」と書く。舞人は4人。2人は赤の袍 (ほう) ,他の2人は緑袍を着用し,垂纓 (すいえい) の冠をかぶり,右手に笏を持って舞う。伴奏楽器は竜笛 (りゅうてき) と篳篥 (ひちりき) が各1人。若干の歌い手のなかの首席唱者は笏拍子を打ちながら歌う。起源に関しては従来東舞に対する大和の舞というのが通説。最古の上演記録として「宝亀元年和舞」とあるように,もともと百済系の和氏の舞であったものが次第に大和地方の舞にすりかえられていったという説もある。ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
■あらまし
大和歌/倭舞は、国風歌舞と呼ばれるジャンルの雅楽の歌舞です。現行では「大直日歌」「倭歌」の二曲を合わせて大和歌一具としています。
※以下当サイトでは、大和歌と倭舞を併記して記します(※1)。
大和歌は上古に大和地方に発生した歌舞で、東国地方の風俗舞である「東遊」に対して、倭舞は名称のとおり大和地方の風俗舞ですが、後に宮中儀礼に取り入れられました。倭舞は単独で演じられることはなく、御代始めの大嘗会の饗宴で「大歌」「田歌」と共に奏されていました。
日本三大実録には、清和天皇の大嘗会(貞観元年11月)に「田舞(多治氏)」「久米舞(伴氏・佐伯氏)」「吉志舞(安倍氏)」「五節舞(宮人)」とともに、内舎人(※4)によって倭舞が演じられた記載があります。
貞觀元年(八五九)十一月十九日庚午。撤去悠紀主基兩帳。天皇御豐樂殿廣廂。宴百官。
多治氏奏田舞。伴佐伯兩氏久米舞。安倍氏吉志舞。内舍人倭舞。入夜宮人五節舞。『日本三代實録』朝日新聞本
倭舞の初見は「続日本紀」の宝亀元年三月の記載です。
宝亀元年三月辛卯の日に葛井・船・津・文・武生・蔵の六氏の男女二百三十人が歌垣に供奉し、歌数が終はる時に河内の太夫である、従四位上藤原朝臣雄田麻呂より以下、和舞を奏した。そして六氏の歌垣に、人ごとに商布二千段、綿五百屯を賜わった・・・とあります。
宝亀元年三月辛卯 葛井 船 津 文 武生 蔵六氏男女二百卅人供奉歌垣 其服並著青摺細布衣 垂紅長紐 男女相並 分行徐進
歌曰
ヲトメラニ ヲトコタチソヒ フミナラス
乎止売良爾 乎止古多智蘇比 布美奈良須
ニシノミヤコハ ヨロヅヨノミヤ
爾詩乃美夜古波 与呂豆与乃美夜
其歌垣歌曰
フチモセモ キヨクサヤケシ ハカタガハ
布知毛世毛 伎与久佐夜気志 波可多我波
チトセヲマチテ スメルカハカモ
知止世乎麻知弖 須売流可波可母
毎歌曲折 挙袂為節 其余四首 並是古詩 不復煩載 時詔五位已上 内舍人及女孺 亦列其歌垣中 歌数□訖 河内大夫従四位上藤原朝臣雄田麻呂已下奏和舞。賜六氏歌垣人商布二千段 綿五百屯『続日本紀』(朝日新聞本)参照
■往時の演奏
「大直日歌」「倭歌」の両歌曲は、近世までは上記で記した大嘗祭の饗宴(節会前夜祭)で「大歌」「田歌」とともに奏される例となっていました。往時は歌曲の助奏に和琴も用いられていたようですが、近代以降は用いられていません(※2)。
▼大直日歌
大嘗祭・新嘗祭前夜の饗宴(節会前夜祭)で唱和された歌曲。
大直日とは多家の旧記に「直は宿直の心、内裏に節会など有時に群臣の伺候する事を大直日とは云。」「此歌は天平14年正月16日(742)踏歌に大安殿に有出御舞姫(五節舞い)御覧の時、大歌(所)の人弾琴歌此歌也云云。是も群臣伺候の心を云う歟。」などとあり、大直日歌は節会前夜祭の歌曲である。「五線譜による雅楽総譜」-芝佑秦-(カワイ楽譜)
▼倭歌
大嘗祭・新嘗祭前夜に「大直日歌」に続いて唱和された歌曲。
御代始めの大嘗祭や毎歳の新嘗祭の前夜(11月22日)、神八座を祭って行われる「鎮魂之儀」を畢え、先ず大祭前夜の故に「大直日歌」を奏し、続いて神官等神前に拝するとき(中世より五位2人六位2人の舞人が代勤、之を和舞(倭舞)と云う)に唱和する歌曲である。「五線譜による雅楽総譜」-芝佑秦-(カワイ楽譜)
■大和歌舞の中絶と復興
往時に歌われた大直日歌・倭歌両歌曲の歌舞は、延慶年間には中絶しました。現行につながる原型は寛延元年(桃園天皇御代)と嘉永元年(孝明天皇御代)の大嘗祭で復興されたものです。歌曲の助奏には龍笛・篳篥が付けられています。
近代は即位大嘗祭並びに毎歳11月23日の新嘗祭前日22日の夜、大祭に備えて「鎮魂の儀」が行われ、大祭前夜の故にて大直日の歌が唱和される。「五線譜による雅楽総譜」-芝佑秦-(カワイ楽譜)
■春日大社の和舞と伊勢神宮の倭舞
倭舞・大和舞と呼ばれる歌舞は各地、各神社等で独自のものが演じられています。これら歌舞は、現在の宮内庁式部職楽部が伝承しているものとは違うものです。
奈良の春日大社では春日祭(3月13日)、昭和の日(4月23日)に奉奏される「やまとまい」も、独自の形で伝えられているものです。なお春日大社で奉奏されているものは「和舞」と表記されます。
さらに伊勢の神宮で演奏される「倭舞」もありますが、これは上記の歌舞とは違ったもので、神宮独特の乙女舞を指します。舞姫が緋色の長袴に白羽二重の千早をつけ、紅梅を飾った天冠を頂き、右手に五色の絹をつけた榊の枝を持って、和琴、笛、篳篥と歌にあわせて4人または6人、8人で舞うものです。
■大和歌一具の構成
▼諸役と人員
諸役 | 舞人 | 龍笛 | 篳篥 | 歌方 | ||
人数 | 4人 | 1人 | 1人 | 数人 |
▼装束と皆具
諸役 | 舞人(上2人) | 舞人(下2人) | 歌方 | |||
装束と皆具 | 赤袍・垂纓冠・笏 | 緑袍・垂纓冠・笏 | 浄衣・立烏帽子 |
▼歌詞
おおなおびのうた
-大直日歌-
アタラシキトシノハジメニカクシコソ
新しき年の始めに かくしこそ
チトセヲカネテタノシキヲツメ
千歳を兼ねて 楽しきをつめ
やまとうた
-倭歌-
ミヤヒトノコシニサシタルサカキバヲ
宮人の輿に挿したる 榊葉を
ワレトリマチテヨロヅヨヤヘン
われ取り待ちて 萬代や経む
▼大和歌一具の次第
大和歌一具 | |||
楽章 | 曲名 | 内容 | |
@ | おおなびのあわせねとり 大直日歌音取 | 龍笛と篳篥の前奏曲 | |
A | おおなおびのうた 大直日歌 | 歌曲 | |
B | やまとうたあわせねとり 倭歌音取 | 龍笛と篳篥の前奏曲 | |
C | やまとうた 倭歌 | 歌曲。舞人登場して舞う |
■近年の演奏
▼宮中祭祀での奉奏
現在宮中では毎年11月22日夜(大嘗祭 ※3・新嘗祭前夜)綾綺殿にて行われる「鎮魂の儀」において、宮内庁式部職楽部の楽師によって奉奏されています。
▼国立劇場での上演記録
・第59回雅楽公演(平成17年11月12日)
「国風歌舞」宮内庁式部職楽部
大直日歌、倭歌、誄歌、田歌、大歌、久米舞
注釈)
※1...大和歌/大和舞は、倭歌、倭舞などと表記されることもあります。
※2...(「五線譜による雅楽総譜」-芝佑秦-)に「和琴古譜(多家)があるが近代和琴は用いられずにいる」とある。
※3...平成2年・令和元年即位大礼(大嘗祭)より。
※4...うどねり。律令の中務省に属した官。宮中に宿直し、武装して天皇の雑役や警衛にあたった。