東遊(あづまあそび)


Misu Misu
舞人 装束
四〜六人 巻纓・挿頭華
青摺の小忌衣
細剣・笏




あずま‐あそび【東遊び】 古く東国地方で、風俗歌に合わせて行われた民俗舞踊。平安時代から、宮廷・貴族・神社の間で神事舞の一つとして演じられた。歌方(うたいかた)は笏拍子(しゃくびょうし)を持ち、笛・篳篥(ひちりき)・和琴(わごん)の伴奏で歌い、四人または六人の舞人が近衛(このえ)の武官の正装などをして舞う。現在は宮中や神社の祭礼で行われる。東舞(あずままい)。

大辞泉(小学館)




■あらまし

東遊(あづまあそび)は雅楽の中では国風歌舞というジャンルに属する歌舞です。東遊の「東」は東国、「遊」は音楽を示し、その起源は上代に遡ります。東遊は東国駿河の宇戸浜(現在の静岡県宇戸浜あたり)で当時行われていた歌舞が後に宮廷に持ち込まれたもので、器楽曲・歌曲合わせて10数曲で構成された組曲となっています。「楽家録」に東遊は、天人が舞い降りて奏した歌舞であるとの記載があります。

東遊
東遊者人王二十八代 安閑天皇六年丙辰、駿河國宇戸濱天人降現而奏歌舞、或翁見之此翁道守氏也而今世模之名東遊、一名號駿河舞云々
(「楽家録巻之三十一」 第十四 雑編 日本古典全集)より


■往時の演奏

東遊の初見は「日本三代実録-貞観3年3月14日-」(861)の東大寺大仏供養の条にある記載のようです。

十四日戊子。於東大寺。設無遮大會。奉供養毘盧舍那大佛。勅二品治部卿賀陽親王。三品中務卿諱光孝天皇親王。四品彈正尹本康親王。正三位行中納言兼民部卿皇太后宮大夫伴宿祢善男。從四位下行右中弁藤原朝臣冬緒。左京大夫從四位下在原朝臣行平。從五位下守左衛門權佐紀朝臣春枝。散位外從五位下布瑠宿祢清貞。外從五位下行左大史三善宿祢清江。小外記正七位下御室朝臣安常等。相率向寺。監修會事。此是佛像。感神聖武皇帝天平十五年創造。文徳天皇齊衡二年。頭傾頚斷。頓落于地。年來修理。鎔鑄復舊。 是日。即便開眼佛師入篭。轆轤引上。乃點佛眼。凡其莊嚴之儀不可勝載。殿廊之柱衣以錦繍。壇場之上敷其朱紫。懸七寳樹。遶栽庭際。藻餝幡盖。排批香花。極巧盡麗。奪人目精。歴覽梵宇。處々莊餝。觀者不能厭而抛過。衲衣宿徳。振錫秀眉。威儀具足。填噎堂宇。大唐。高麗。林邑等之樂。鼓鐘肆陣。絲竹方羅。先令内舍人端□者廿人供倭舞。次近衛壯齒者廿人東舞。
(「日本三代実録-巻第五-」 藤原時平・菅原道真・大蔵善行・三統理平 編)


■東遊の中絶と復興

東遊は室町中期に断絶してますが、江戸期に逐次再興されていきました。今日演奏されている東遊は文化10年(1813)、石清水八幡宮臨時祭再興の際に再興されたものです。



■東遊の構成

▼人員
・使用楽器 - 笏拍子・和琴・高麗笛・篳篥
諸役 舞人 和琴 狛笛/中管 篳篥 琴持 唱和
人数 4人〜数人 1人 1人 1人 2人 数人
※舞人の数は一定しませんが、基本的に偶数員で舞います。
※東遊の笛は、本来は中管(東遊笛)と呼ばれる笛を用いますが、現行では高麗笛(狛笛)を代用して演奏されます。



▼東遊の歌曲の歌詞

●「一歌」
ハレムナ テヲトト ノエロナ ウタトトノエムナ サカエムノネエ
晴れんな 手を調へろな歌ととのへむな 栄えむの音

●「二歌」
エ ワガセコガ ケサノコトテハアハレ ナナツヲノ ヤツヲノコトヲ 
え 我が背子が 今朝の琴手は七つ緒の八つ緒の琴を

シラベタルコトヤナヲ カケヤ アマノカツノヲケヤ 
調べたることや 汝を懸山の桂の木や

●「駿河歌一段」
ヤ ウトハマニ スルガナル ウトハマニ ウチヨスル ナミハ
や 有渡浜に 駿河なる 有渡浜に打ち寄する波は

ナナグサノイモ コトコソヨシ
七草の妹ことこそ 良し

●「駿河歌二段」
コトコソヨシ ナナグサノイモハ コトコソヨシ ハヘルトキ
ことこそ良し 七草の妹は ことこそ良し 逢へるとき

イササハネナンヤ ナナグサノイモ
いささは 寝なんや 七草の妹ことこそ 良し

●「求子歌」
チハヤフル カミノ オマエノ ヒメコマツアハレレン
千早振 神の御前の 姫小松天晴れレン

レレンヤ レレンヤ レレンヤレン アハレノヒメコマツ
レレンヤ レレンヤ レレンヤレン 天晴れの 姫小松

●「大比禮歌」
オオビレヤ ヲビレノヤマハヤヨリテコソ
大比禮や 小比禮の山はや寄りてこそ


▼東遊で用いる和琴の調絃
絃名
音律
(英名)
下無
(F#4)
上無
(C#4)
盤渉
(B3)
黄鐘
(A4)
平調
(E4)
黄鐘
(A3)


▼東遊で用いる和琴の調絃法(絃合)
@ 五 → 三
E4 → B3
(下方完全四度)
平調 → 盤渉
(逆六律)
宮 → 徴
A 三 → 一
B3 → F#4
(上方完全五度)
盤渉 → 下無
(順八律)
徴 → 商
B 一 → ニ
F#4 → C#4
(下方完全四度)
下無 → 上無
(逆六律)
商 → 羽
C 五 → 六
E4 → A3
(下方完全五度)
平調 → 黄鐘
(逆八律)
宮 → 律角
D 六 → 四
A3 → A4
(上方完全八度)
黄鐘 → 黄鐘
(甲乙律)
律角 → 律角

※絃合の作法
はじめに高麗笛(歌笛・中管)六孔平調音を第五絃にとり、これを基音とします。この五絃から下方完全四度(逆六律)を三絃にとり、次に三絃から上方完全五度(順八律)を一絃にとり、また一絃から下方完全四度(逆六律)を二絃にとります。さらに五絃から下方完全五度(逆八律)を六絃にとり、最後に六絃からオクターブ上の音(甲乙律)をとって、調絃は完了です。



■現行の演奏作法

東遊の演奏はまず、狛笛(高麗笛)と篳篥、和琴による器楽曲「狛調子」の演奏から始まります。東遊は屋外での演奏を前提としてますので、演奏者は奏者、唱者共に立礼で行われます。和琴は奏者以外に2人が、龍角と龍跡を持ち支えます。この役を「琴持」と呼びます。

狛調子の演奏が終わると、「阿波礼」「音出」「於振」へと順次唱和・演奏され、器楽曲「歌出」の演奏が始まると舞人が順次中央へ進み、舞の所作を行っていきます。

▼現行の東遊一具
楽章 歌曲名 付方 斉唱
助奏
@ こまじょうし
狛調子
和琴
中管
篳篥
A あはれ
阿波礼
和琴 斉唱
B こわだし
音出
中管
篳篥
C おぶり
於振
和琴 斉唱
(和琴助奏)
D いちうた
一歌
和琴
中管
篳篥
斉唱
E おぶり
於振
和琴 斉唱
(和琴助奏)
F にうた
ニ歌
和琴
中管
篳篥
斉唱
G おぶり
於振
和琴 斉唱
(和琴助奏)
H するがうたのうただし
駿河歌歌出
中管
篳篥
I するがうたのいちだん
駿河歌一段
和琴
中管
篳篥
斉唱
(※1)
J するがうたのにだん
駿河歌ニ段(※2)
和琴
中管
篳篥
斉唱
(※4)
K かたおろし
加多於呂志
狛笛
篳篥
(※3)
L あはれ
阿波礼
和琴 斉唱
(和琴助奏)
M もとめごのうただし
求子歌出
中管
篳篥
N もとめごうた
求子歌
中管
篳篥
和琴
斉唱
(※5)
O おおびれのうただし
大比礼歌出
中管
篳篥
P おおびれうた
大比礼歌
和琴
中管
篳篥
斉唱
註釈)※楽章曲名は(「日本音楽大辞典」-平凡社-)にしたがった。
※1...舞人は登場
※2...「駿河歌揚拍子」とも呼びます。
※3...舞人は片下(かたおろし)の所作を行う。
※4...舞人は駿河舞を舞う。
※5...舞人は求子舞を舞う。



■古典文学の記載

▼枕草子より

舞は駿河舞求子いとおかし。 太平楽、太刀などぞうたてあれど、いとおもしろし。 唐土に敵どちなどして舞ひけむなど聞くに。 鳥の舞。抜頭は髪振り上げたるまみなどは、うとましけれど、楽もなほいとおもしろし。落蹲は二人して膝踏みて舞ひたる。狛がた。
「枕草子 205段」


承香殿のまへのほどに、笛ふきたて、拍子うちて遊ぶを、とくいでこなむと待つに、有度浜うたひて、竹の籬(ませ)のもとにあゆみいでて、御琴うちたるほど、ただいかにせむとぞおぼゆるや。一の舞の、いとうるはしう、袖をあはせて、二人ばかりいできて、西によりて向かひてたちぬ。つぎつぎいづるに、足踏みを拍子にあはせて、半臂(はんぴ)の緒つくろひ、冠衣の頸など、手もやまずつくろひて、「あやもなきこまつ」などうたひて舞ひたるは、すべてまことにいみじうめでたし。
「枕草子 137段」


大比禮など舞ふは、日一日見るとも飽くまじきを、終てぬるこそいと口惜しけれど、又あるべしと思ふはたのもしきに、御琴かきかへして、このたびやがて竹の後から舞ひ出でて、ぬぎ垂れつるさまどものなまめかしさは、いみじくこそあれ。掻練の下襲など亂れあひて、こなたかなたにわたりなどしたる、いで更にいへば世の常なり。
「枕草子 135段」




■近年の演奏

東遊は現在多くの演奏団体で上演されています。また石清水臨時祭・大原野祭・春日祭・賀茂祭・賀茂臨時祭・祇園祭・平野祭を始め、全国の神社の行事の折にも奉奏されています。

東遊の歌舞はもと東国駿河の風俗歌舞に興り、清和天皇貞観3年3月14日(861)東大寺大仏修理落成の日に、大唐高麗林邑などの外来音楽と「先令内舎人端□者廿人供倭舞次近衛壮歯者15廿人東舞云云」(三代実録)と東遊 即ち 東遊の演奏例があり、また宇多天皇寛平元年11月21(889)始めて賀茂上下の社に臨時祭を行われた時、「又習東舞近衛府官人中堪歌曲者15人為陪従云云」(年中行事秘抄ノ御記)と、賀茂神社に勅使左近衛中将藤原時平を立て、東遊を奉納せしめられたのを初例として、石清水、春日を始め近畿の各神社に皇室より奉納された歌舞曲である。
(「五線譜による雅楽総譜 巻一 歌曲篇 -芝祐泰-」-カワイ楽譜-)


▼宮中祭祀

以下の宮中祭祀においては、東遊は宮内庁式部職楽部の楽師により、奉奏されています。

・春季皇霊祭 皇霊殿(3月春分)
・秋季皇霊祭 皇霊殿(9月秋分)
・神武天皇祭 皇霊殿(4月3日)
(皇霊殿の儀)

▼国立劇場での上演記録

・第4回歌謡公演(昭和54年6月16日)
 「歌舞(うたまい)」東京楽所

・第9回音曲公演(平成3年4月26日)
 「催馬楽・朗詠・東遊」宮内庁式部職楽部

・第52回雅楽公演(平成14)年5月9日)
 「日韓宮中音楽交流演奏会」宮内庁式部職楽部・韓国国立国楽院

・第83回雅楽公演(平成30年3月3日)
「国風歌舞」宮内庁式部職楽部・雛の会